異変
それ以来、僕達は引っ越しを繰り返した。
7歳の時、父が病気で亡くなった。 母は女手ひとつで僕を育ててくれたが、いつも何かに怯えているようだった。 母は僕が人と接触するのを極端に嫌がり、学校へ行く事も禁止するようになった。 だんだんやつれていく母を見て僕は、母を守りたい、強くなりたいと考えるようになっていった。 その頃から僕の周りの声はより一層大きくなり、人が近くにいれば、常に聞こえるようになった。
あまりに周りが騒がしすぎたせいだろうか? 僕は頻繁に頭痛を訴えるようになった。 「うるさい!黙れっ!」 頭を抱え込んでしまう僕を見て、母が言った。 「海、もっと静かな所へ引っ越しましょう。誰もいない所へ・・・。」
僕達は人里離れた山へと引っ越して行った。
「まだ見つからないのか?」 「はっ、あらゆる手を尽くして捜してはいるのですが・・・。」 「あいつらに先を越される前に必ず捜し出すんだ。いいな。」 「はっ。」
周りに母以外の人間がいない静かな環境で暮らしたせいだろうか? 僕の頭痛の回数は減っていった。 僕には人間の友達はいなかった。 でも変わりに山に住む動物達が僕の話し相手となった。 僕には何故か動物達の考えていることも分かったし、動物達にも僕の意思が通じていた。 僕はそれを当然のことのように受け止めていたが、普通の人間にはあり得ないことだった。
「はははっ、くすぐったいよ、ラビィってば。」 僕はいつものように仲の良いうさぎのラビィと遊んでいた。 僕は学校へは行っていなかったが、母が勉強の全てを教えてくれた。 だから言葉も話せたし、何も困ることはなかった。 「今日はちょっと暑いね。ラビィは大丈夫?」 その時、ラビィが何かに怯えるかのように耳をピンと立てた。 「ラビィ?」 僕は何となく不安にかられた。 「ここだ!見つけたぞ!」 目の前にはいない男達の声が頭に響く。 そして目の前にフラッシュする家の光景。 「何?これ?」 今まで周りの人間の声が聞こえることはあったけど、離れた所の人間の声が聞こえることなどなかったし、こんな光景が見えることもなかった。 「どこだ!貴美子!息子を何処に隠した!」 「息子は生まれて間もなく死にました!」 「隠すとためにならんぞ!」 「きゃあっ!」 まるで目の前で繰り広げられているかのように、家の中の様子がはっきりと見える。 「お母さんっ!」 僕は500mほど離れた我が家へと、急いで戻った。 |
前半は1999年頃書いたものですが、途中から書きたてほやほやです。(笑)
しかしよくこんなの会社で書いてるよなあ。^^;